鈴木 啓太氏:実は今まで木材を積極的に使ってこなかったのですが、それは木材は家具や工芸に代表される、手仕事の分野で輝く素材という印象を持っていたから。しかし今回、デジタルデータを完全に再現できる技術が生まれていたことを知り、その考えは180度変わりました。3Dデータを正確に再現できるということは、他の素材とも精巧に組み合わせられるということ。当然デザインの幅や表現の可能性は、各段に広がります。なかでも特に注目しているのは、正確さや安全性が不可欠となる公共分野に加え、鉄道車両やバス、車や自転車などのモビリティ。アート作品とはまた違う、私たちの暮らしや社会にしっかりと実装されていくデザインを生み出していきたいです。
プロトタイプデザインを具体化
ICI総合センターが木工用ロボットアーム型加工機を用いて製作協力を行った、
ガウディの建築思想や多様な素材・造形の窓に着想をもとに提案された「太陽と月の窓」が、
東京ミッドタウンで開催されているYKK AP株式会社主催の展示
「未来をひらく窓ーGaudí Meets 3D Printing」にて展示されました。
本展では、世界的に著名な建築家アントニオ・ガウディの自由形状の窓に着想を得て、
最新3Dプリンティング技術でつくる新しい窓のプロトタイプデザインを展示しています。
クリエイティブディレクターを務める鈴木啓太氏(PRODUCT DESIGN CENTER)が
提案した3種類(光/風/音)の窓のプロトタイプデザインのうち、
光をテーマにした「太陽と月の窓」の製作をICI総合センターが製作協力いたしました。
Inspire初めてガウディ建築を訪れた時に感じた、
窓と太陽の光が生む、複雑に折り重なる美しい色彩。
さらにガウディ建築の窓で採用した開閉機構。
この2つの要素からインスパイアされている
Concept 窓の中心に回転軸がデザインされ、地球儀のように窓を自由な角度に動かすことが可能。窓の透過部は、太陽光に反応して色が変化。光の強さに応じて窓の色が濃く変化し、紫外線をカットする。また木製の窓のフレームは、手仕事で木を彫刻的に加工していたガウディの時代へオマージュを捧げつつ、3Dデータをもとに最新の製造技術で木を削り出した。太陽の上昇とともに色づき、太陽が沈むと透明に戻る窓。日中はステンドグラスのような美しい色彩の影が現れ、夜には繊細な月灯りを室内に取り込みます。
鈴木 啓太
プロダクトデザイナー、クリエイティブディレクター。1982年生まれ。多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業。
PRODUCT DESIGN CENTER代表。古美術収集家の祖父の影響で、幼少より人が織りなす文化や歴史に興味を持つ。森林活用から都市環境、伝統工芸から3Dプリンティングなどのアディティブ・マニュファクチャリングまで、幅広い分野に精通。美意識と機能性を融合させたデザインで、国内外でプランニングからエンジニアリングまでを手掛ける。
2008年「TOKYO MIDTOWN AWARD」受賞、 2016年「HUBLOT DESIGN PRIZE」初のアジア人ファイナリスト、2018年初個展「鈴木啓太の線:LINE by Keita Suzuki」を柳宗理記念デザイン研究所で開催、2019年「相模鉄道20000系」が「ローレル賞2019」受賞、2020年「ELLE DECOR Young Japanese Design Talent」受賞等。
2015-2017年グッドデザイン賞 最年少審査委員。
木材を用いるデザインが
次のステージへ
ー多軸加工機を選定した理由、注目したポイントを教えてください
鈴木 啓太氏:YKK APさんと一緒に3Dデータから木材を切削できる会社を探している中で、前田建設工業さんの先端技術によって実現できることが分かり、今回の制作をお願いすることにしました。
ー今回の作品の出来栄えはどうでしたか?
鈴木 啓太氏:前田建設の皆さんの技術力や知見のおかげで想像を超える出来栄えとなり、僕自身とても興奮しました。特に感動したのは、細部に及ぶ複雑な形状と、自然が育てる木目の美しい表情が共存できたこと。大型の制作物にもかかわらず、ある意味自然と人口を組み合わせた形と風合いを生み出せたのは、技術とデザインの力がぴったりと融合した結果だと思っています。素材やテクニック、製造時間まで各所と意見を交換しながら作り上げたことで、木材を用いるデザインが次のステージへ進化していく姿が見えました。今後はもっと多くのテクスチャーや技術に合わせた装飾的な仕上げが開発できるとさらに発展していくはずと、早くも未来にワクワクしています。
ー今後ロボットを使用して制作したいものはありますか?
匠の技を再現
今回の作品は大規模木造用ロボット加工機を使用して製作されました。
このロボット加工機は前田建設工業株式会社と国立大学法人千葉大学平沢研究室の共同で、
BIM(Building Information Modeling:建築3次元モデル)のデータから
大規模木造建築に使用するCLT材などの構造材を自動加工することを目的に開発されました。
ロボット加工機は、従来加工の他、3次元データを用いた彫塑的な加工を行うことも可能で、
これにより伝統建築における意匠的な装飾を施した材料などの自動加工についても、
BIM三次元データから一気通貫で加工が可能です。
また、多関節型ロボットを用いた材料の全面同時加工は、精密加工や曲線加工が可能なため、
細密な木質内装加工、複雑な型枠の制作、家具什器や芸術作品にも適用可能です。
ICIラボ内のネスト棟では、本加工機でカットした材料を構造材として使用しました。
さらに精密彫刻の性能実証を目的とした恐竜骨格標本の複製製作を
福井県立恐竜博物館・福井県立大学恐竜学研究所監修の下で行い、現在ネスト棟で公開中です。
従来の木造加工機が抱えていた問題を解消し、創造性を重視した国産の加工機で、
職人の技を使える「人工技能」の実現を目指します。